むかしのことば(こてんのことば  過去記事まとめ その1)

こてんのことば(日本古典文学に出てくる「言葉」について書いた文章)

 

 

空

日本古典文学に関する過去記事のまとめです。
日本古典文学について「四季の言葉」とは違う側面から書いてみた文章です。

 

お盆(盂蘭盆会 うらぼんえ)について

古民家月更けて猫も杓子も踊かな 与謝蕪村

蕪村の句に出てくる「踊り」とは盆踊りのことです。

お盆には亡くなられた方を偲んで、仏前に五供(ごくう)を供えます。

五供とは、香、花、灯明、浄水、飲食の5種類のお供え物です。
ほとけ様の食べ物だと言われている香(こう)。
香り高いお線香を毎日あげることが、供養につながります。

仏さまの世界をさらに高める花。
故人が好きだった花を供えましょう。

灯明は光はほとけ様の象徴。蝋燭で仏前を明るく照らします。
ゆっくりと燃えて、やがて消えていく様子が、人生の無常を表すと言われています。

清浄な水を供えることによって、おまいりする人の心を洗う浄水(じょうすい)。

毎日家族が食べるものと同じものをお供えする飲食(おんじき)。

お盆には、普段会わない家族も集まります。
故人を偲んで、ゆっくりと家族で語らってみてはいかがでしょうか。

(2018.8.12)

 

紫陽花と橘諸兄の願い

あじさい

あぢさゐの八重咲くごとく八つ代にを いませ我が背子見つつ偲ぶはむ

(あじさいの花が八重に咲くように、あなたも八代まで、いつまでも元気でいてください)

万葉集に出てくる橘諸兄の歌です。

花言葉は「辛抱強い愛情」「一家団欒」「家族の結びつき」など。

赤、青、紫、白、緑……色とりどりの美しい紫陽花は、
雨が降り続けてうっとうしい季節の中で、たくさんの人に笑顔を与えてくれます。

 

6月18日に起きた大阪北部地震。
幸い、私や家族は無事で、普段通りの生活をしていますが、
被災された皆様に、一日も早く、穏やかな日々が訪れますように。

(2018.6.21)

さくらのことば

青空と桜

「花」といえば「桜」をさすほど、日本人は桜を愛してきました。
そのため「桜」のついた言葉はたくさんあります。
その一部をご紹介しましょう。

 

【こぼれ桜】
桜の花が満開で、まるで地面にこぼれ落ちたように見える様子。

【花吹雪】
満開の桜の花びらが、風に吹かれて舞い散る様子が、雪が吹雪いているように見えることから生まれたことばです。

【花明かり】
桜の花が満開で、闇の中でも辺りをほんのりと明るく照らしているように感じられる様子。

【花筏(はないかだ)】
水面に散った花びらが筏のように流れていく様子。

【花の浮橋】
水面に散った花びらが橋のように集まっている様子。

桜の儚さを彷彿とさせる美しい言葉ばかりですね。

(2018.4.3)

 

蜩(ひぐらし)と正岡子規

お寺の参道

 

日中は、外に出ると息苦しいほどの暑さが続く豊中も、夜は涼しくなってきました。

今年は暑さのせいか、あまり蝉の鳴き声もしない夏でした。

 

蜩(ひぐらし)に一すぢ長き夕日かな  正岡子規
日がだんだん短くなるこの季節に似合う俳句です。

(2017.8.29)

蓮の物語……雄略天皇と赤猪子の悲恋

蓮

日下江(くさかえ)の 入江の蓮(はちす) 花蓮(はなはちす) 身の盛り人 羨(とも)しきろかも
(日下江(河内国にあった潟湖)の入江の蓮。蓮の花のように美しい若い盛りの人がうらやましい)

美しき乙女・引田部の赤猪子(ひけたべのあかいこ)の歌です。


雄略天皇は泊瀬の三輪川に遊んだ時、川のほとりで洗濯をしている美しい少女・引田部の赤猪子に出会います。

御諸(みもろ)の 厳白樫(いつかし)がもと 白樫かしがもと ゆゆしきかも 白樫原童女(かしはらをとめ)

(三輪山の神聖な樫の木の下、白樫の木の下は、侵してはならない場所。触れるのも憚られるよ。橿原の乙女は)

天皇は赤猪子に「おまえは夫を持つな。そのうち私が召そう」と言い残して、宮に帰りました。

そして赤猪子が天皇のお召しを待っているうちに80年が過ぎました。

いつまでたっても、天皇は迎えに来ません。

意を決した赤猪子は、たくさんの引き出物を供に持たせて宮中に参内します。

御諸(みもろ)に 築つくや玉垣 築き余し 誰たにかも依らむ 神の宮人
(三輪山の大神(おおみわ)神社に美しい垣を土で築きました。すっかり築き終えて余った土のように無用に残ってしまった私は、誰に身を寄せればよいのでしょう。神社の巫女みたいな私は)

日下江(くさかえ)の 入江の蓮(はちす) 花蓮(はなはちす) 身の盛り人 羨(とも)しきろかも

これが、その時に赤猪子の詠んだ歌。

約束を忘れてしまっていた天皇はたいそう驚き、赤猪子を不憫に思い、歌を読みました。

 

引田(ひけた)の 若栗栖原(わかくるすばら) 若くへに 率ゐ寝てましもの 老いにけるかも
(引田の地の若い栗林のように、若い時に一緒に寝たかったのに、お前は年老いてしまったなあ)

 

赤猪子はこれを聞いて涙で赤染めの袖を濡らし、天皇から多くの宝物をいただき、三輪へ帰りました。

とても悲しい蓮の物語。
万葉集」「古事記」に載っていますので、興味がある方はいかがでしょうか。

(2017.8.15)

 

夏目漱石の名文「こころ」を校正してみると?

 

夏の日差し

『私はその人を常に先生と呼んでいた。だからここでもただ先生と書くだけで本名は打ち明けない。これは世間を憚る遠慮というよりも、その方が私にとって自然だからである。私はその人の記憶を呼び起すごとに、すぐ「先生」といいたくなる。筆を執っても心持は同じ事である。よそよそしい頭文字などはとても使う気にならない。』

新潮文庫の100冊2017に選ばれている夏目漱石「こころ(青空文庫)」

Web版の校正ツール「日本語校正サポート」を使って、校正してみたところ、こんな結果でした。

憚 難読 常用漢字表外の漢字 言い換えの例 なし

一か所だけ校正ツールが指摘したのは、憚る(はばかる)という字。
憚るは「思いあがる」という意味で使われる言葉だと記憶していますが、「言い換え例なし」って本当でしょうか。

これを言い換えるには……いくつか頭の中に候補が浮かびましたが、念のため、Weblio類語辞書で調べてみました。

憚る 自分を過大評価すること その類語は

増長する ・ 付け上がる ・ 思い上がる ・ いい気になる ・ 図に乗る ・ 調子に乗る ・ 調子づく ・ 調子をこく ・ 驕る ・ 驕り高ぶる ・ 慢心する ・ 自惚れる ・ 高ぶる ・ 偉ぶる ・  世にはばかる ・ 分をわきまえない ・ つけ上がる ・ 胡坐をかく ・ テングになる ・ 傲慢になる ・ 思いあがる ・ 先輩風を吹かせる ・ ふんぞり返る ・ 自分を過信する ・ 自信過剰になる ・ 自己過信する ・ うぬぼれる ・ 畏れを知らない ・ 神をも畏れぬ ・ うぬぼれが強い ・ 大物ぶる ・ 大きな顔をする

これだけたくさんありました。

それぞれの言葉が微妙に違うニュアンスを持つ日本の言葉。
大切にしたいですね。

(2007.8.1)

変わりゆく日本語表現

 

波

『「先生に聞きに行きませう。」 と、花子さんは、その貝をもつて、先生のところへ走つて行きました。』

この文例が作成されたのは昭和21年3月。
文部省で編修・作成する教科書や文書などの国語の表記法を統一し、その基準を示すために、文部省教科書局調査課国語調査室が編纂した4冊の冊子の中にあります。

昭和21年(1946)年、今から70年前に「正しい文章の書き方」と決められたものですが、現在でも一部が公用文、学校教育その他で参考にされています。

たった70年で「正しい日本語表記」が、ここまで変わってしまうなんて。

正しい日本語ってなんだろう?

日本の昔の文章、古文や漢文を勉強してきた私には、「この文章が絶対正しい」と言い切る自信がありません。

文化庁第3回国語審議委員会は『正書法の問題 正書法について(報告)』で、

『「現代かなづかい」は,「大体,現代語音にもとづいて,現代語をかなで書きあらわす場合の準則」であるから,その適用として示された中には,必ずしも現代語音にもとづかないものがある。「現代かなづかい」は歴史的かなづかいでないことはもちろん,音韻表記としても徹底的なものではない。』

と、正しい日本語表記が確立されていないことを認めています。

そして『正書法について(報告)2』で、

『われわれは正書法の確立について,今後さらに広く実践と研究が行われることを期待するものである。』

と、今後の研究に期待している状態。

言葉は時代によって、どんどん変わっていきます。

私はライティングアドバイザーとして、他人の文章を「正しい状態に直す」のではなく、「悪いところだけを直す」ように心がけているのは、そのためなのです。
(2017.7.29)

 

尊敬する作家・小泉八雲

壁

『東京の赤坂通りに、「きいのくに坂」という坂があります。それは、「紀伊の国の坂」という意味です。なぜそのようによばれているのか、私にはわかりません。』

『むじな』という話の冒頭です。

作品は『怪談』。
作者は小泉八雲、ラフカディオ・ハーンの名で知られている英米文学者。
日本人よりも日本人らしい人でした。

『怪談』は『耳なし芳一』や『雪女』などが有名で、原文は『KWAIDAN』。
英語で書かれているため、多くの日本人が翻訳しています。

Akasaka street of Tokyo, there is a slope called “kiinokunizaka”.
That means “the slope of the country of Kii”.
Why are called to such, I do not know.

へたくそですが、原文に近づけるために私が英訳してみました。

このわかりやすく引き込まれる文章の原文が、明治の外国人が書いたものと知った時、私は非常に驚きました。

……せめて小泉八雲の3分の1程度の才能があればなあ。

そう思いながら、これまで文章を書いてきました。

小学校高学年向けの『怪談』(小泉八雲著 山本和夫訳 ポプラ社)は、ルビがふってあるのでおすすめです。

(2017.6.24)

土佐日記為家本の思い出

ひらがな

川西市にある大阪青山歴史文学博物館。
平成11年に建造された天守閣を模した学校施設です。

国宝『土佐日記』(古くは「土左日記」と記されていた)』、『明月記』をはじめとする重要文化財16 件が収蔵されていますが、この『土佐日記』は『為家本』と呼ばれるもの。

学生だった1984年、「学校が大変な歴史的資料を手に入れた」と大騒ぎになり、当時、学校の図書館のガラスケースに納められた「為家本」を見た時の衝撃は、いまだに忘れられません。

『為家本』は、鎌倉時代の公家・歌人だった藤原為家が嘉禎 2(1236)年、蓮華王院にあった紀貫之自筆の『土左日記』を一字も違えずに書写したもの。

オリジナルの貫之自筆本が失われてしまったため、原本の姿を最も忠実に伝える学術文献資料として、1990年に重要文化財に、1999年に国宝に指定されました。

『土佐日記』の成立が平安時代の承平5年(935年)ですから、1000年以上前の物語が、何の変更も加えられることもなく伝えられ、今も愛されている……

これは一つの奇跡です。

(2017.5.13)

 

漢文……日本古典文学の源流

 

川

江碧鳥逾白
山青花然欲
今春看又過
何日是帰年

江(こう)碧(みどり)にして鳥(とり)逾々(いよいよ)白(しろ)く
山(やま)青(あお)くして花(はな)然えん(もえん)と欲す(ほっす)
今春(こんしゅん)看(みすみす)又(また)過(す)ぐ
何(いず)れの日(ひ)か是(こ)れ帰年(きねん)ならん

 

中学校の教科書にも出てくる有名な杜甫の「絶句」です。

日本の古典文学に大きな影響を与えた音の美しい漢文。
有名なものはネット上にありますし、意外と気軽に楽しめるものです。(2017.4.27)