晴れた日に
それは新しい年の始まる半月前、よく晴れた冬の日、午前中のことでした。
パソコンで年賀状のデザインをしている最中、突然、携帯電話が鳴りました。
電話の主は妹。
ひどくあわてたような声でした。
「姉ちゃん。今、病院から電話があって、ママが死んだって」
「は?」
唐突な話に耳を疑いました。
朝、母が廊下で倒れているところを父が発見し、救急車で病院に運んだ時には心肺停止状態で、手の施しようがなかった……
妹の話を聞いても、しばらくは状況を理解できませんでした。
母と会ったのは、リフォームが終わった先週の木曜日。
「ちょっと高かったけど、ビルトインの食洗器にしたから楽になったわ。やっぱり、自分が一番長い時間いるところは、自分が気持ちよくおれるようにせんといかんね」
リフォームしたてのピカピカの台所を見せてくれました。
料理好きな母らしいなあ……と思いながら、淹れたてのコーヒーを飲んでいましたが、母が一つの動作が終わるたびに肩で息しているので、少し不安になりました。
「喘息が悪いんかいな」
「いや、最近、心臓の調子がよくないみたいで、朝方胸がどきどきするねん」
「早く精密検査したら。血圧高いんやし」
母方の親族は血圧が高く、ほとんどが脳出血や心筋梗塞で亡くなっています。
「精密検査の予約入れたから大丈夫や」
「最近寒いから気をつけてな」
ステンシルの型紙のコピーを頼まれ、本を持って帰宅しました。
翌日、本とコピーを持って実家に行くと、母は不在……
木曜日が母との最期の時間でした。
少し身をかがめて台所に立つ母の後ろ姿。
それが私が見た最後の母の姿でした。
いつも家族においしいものを食べさせようと頑張っていた母。
3人の子供を育てようと懸命に働いた母。
気苦労ばかりかけて、ろくに親孝行もできず、本当に申し訳ありませんでした。
普段から「私は病院や介護施設で死ぬのは嫌や。死ぬ瞬間まで、家で生活してたい」と言っていた母が、長い間苦しまずに、望みどおりに自宅で亡くなったことは、神様のおぼしめしかもしれません。
長い間、不調な体を抱えながらも、家族のために懸命に生きた母。
天国で安らかな眠りについてほしいと願うばかりです。