日下江(くさかえ)の 入江の蓮(はちす) 花蓮(はなはちす) 身の盛り人 羨(とも)しきろかも
(日下江(河内国にあった潟湖)の入江の蓮。蓮の花のように美しい若い盛りの人がうらやましい)

美しき乙女・引田部の赤猪子(ひけたべのあかいこ)の歌です。


雄略天皇は泊瀬の三輪川に遊んだ時、川のほとりで洗濯をしている美しい少女・引田部の赤猪子に出会います。

御諸(みもろ)の 厳白樫(いつかし)がもと 白樫かしがもと ゆゆしきかも 白樫原童女(かしはらをとめ)

(三輪山の神聖な樫の木の下、白樫の木の下は、侵してはならない場所。触れるのも憚られるよ。橿原の乙女は)

天皇は赤猪子に「おまえは夫を持つな。そのうち私が召そう」と言い残して、宮に帰りました。

そして赤猪子が天皇のお召しを待っているうちに80年が過ぎました。

いつまでたっても、天皇は迎えに来ません。

意を決した赤猪子は、たくさんの引き出物を供に持たせて宮中に参内します。

御諸(みもろ)に 築つくや玉垣 築き余し 誰たにかも依らむ 神の宮人
(三輪山の大神(おおみわ)神社に美しい垣を土で築きました。すっかり築き終えて余った土のように無用に残ってしまった私は、誰に身を寄せればよいのでしょう。神社の巫女みたいな私は)

日下江(くさかえ)の 入江の蓮(はちす) 花蓮(はなはちす) 身の盛り人 羨(とも)しきろかも

これが、その時に赤猪子の詠んだ歌。

約束を忘れてしまっていた天皇はたいそう驚き、赤猪子を不憫に思い、歌を読みました。

 

引田(ひけた)の 若栗栖原(わかくるすばら) 若くへに 率ゐ寝てましもの 老いにけるかも
(引田の地の若い栗林のように、若い時に一緒に寝たかったのに、お前は年老いてしまったなあ)

 

赤猪子はこれを聞いて涙で赤染めの袖を濡らし、天皇から多くの宝物をいただき、三輪へ帰りました。

とても悲しい蓮の物語。
万葉集」「古事記」に載っていますので、興味がある方はいかがでしょうか。

 

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